いつも、がけっぷち 2015年01月

後藤さん人質事件と報道と反応への違和感

一連の後藤さん事件に関する報道と反応の違和感。

キューバからカンクンに入り、ネットにつながった途端に入ってきたのが後藤健二さんの人質事件だった。
なので当初の国内のリアクションを把握していなかったのだが、帰国して状況を知れば知るほど、その対応と報道についてなんともいえない違和感を持っている。
まず報道が後藤さんの事件一色ということ。もちろん日本人が絡む重大な事件であり今、世界的脅威になっているイスラム国に関わることなので、ニュースバリューは大きいだろう。
しかし、それでも人間ひとりの命に関わる問題であることに変わりはない。その騒ぎを耳にしながら、思い起こしたのは、ひとりの女性のスピーチだった。昨年8月にブログでも紹介したが、イスラム国に迫害されるヤジディ教徒の議員が、文字通り死にもの狂いでイスラム国の迫害を訴えたものだ。何万という住民が殺され、婦女子が犯され、奴隷となり、売られていっている。それは今、この瞬間もそれが続いている。しかし、誰も助けてくれない。なんとかしてくれ。こんなことがあっていいのか。

Youtubeに流れた彼女の悲痛な叫びは、言語の壁を超えて胸に突き刺さった。
しかしそうした惨状を、大きく報道する日本のマスコミは少なかったし、日本人の反応も、対岸の火事を眺めるような、あるいは全く無関心なものだったように思える。
今、人命が第一と声を上げている人々は、なぜあのとき何千、何万と言う人々が殺され、犯され、売られているのに声をあげなかったのか。そんなことを思わずにはいられない。

当初、介入を避けていたアメリカも、その後、イスラム国の拡大とその危険性を考慮したのか、空爆という限定的な形で介入を始める。そもそもイスラム国ができた原因は、アメリカのイラク侵攻にあるのだから、何もしないというのは無責任だ。ただ空爆がその答えとなるかどうかといえば、難しいことだが。
かつてアメリカのイラク侵攻を支持し、資金だけではなく、限定的とはいえ後方支援したのは日本である。日本もイスラム国の成立と拡張には、アメリカと連帯責任があるはずだ。
中東における外交的中立ということがいわれるが、それは事なかれ主義の無責任ではないのか。かたや、ならずもの国家が侵略とそれを食止めようとする周辺国家と平等に接すること自体おかしいだろう。日本にはイスラム国の蛮行や拡張に対して、何らかのアクションをする責任がある。人道的支援をするのは当たり前のことだ。

後藤さんの報道に関しても、マスコミがここにきて、やたらヒロイックに祭り上げているのも不愉快だ。彼は、中東に出入りするいわゆるうさん臭い自称フリージャーナリストとは一線を画すということは、かつて記事を引用して指摘したことがある。しかし、それは彼がヒーローだと言っているわけではない。まともな仕事をしているまともなビデオジャーナリストということだ。それ以上でも以下でもない。世の中には、現地でぐだぐだ大麻を吸っているような、どうしようもない自称ジャーナリストもいるからだ。

かつて大手の海外通信社でデスクも担当していた頃、インドで列車事故のニュースが飛び込んで来たことがある。即座にニュースバリューを斟酌して記事の優先度、カラー写真の必要性の有無、カメラマンを派遣するかどうかなど諸々を決めなければいけないのだが、そのとき誰かが言ったのが「インド人1000人がアメリカ人ひとりかな」という言葉だった。命の重さを言っているのではない。ニュースバリューの物差しを皮肉を込めて言ったのだ。
現場の感覚を言えば、悲しいことに正にその通りだった。

今の日本はどうだろう。日本人ひとりの命がたとえばイラクの10万人に匹敵するのだろうか?マスコミが後藤さんをヒーロに祭り上げるのは、多大な人員と誌面を割いて報道しているのだから、そうあって欲しいという願望もあるだろう。得意の上げて落とすというオチもこれからくるのだろう。
私は後藤さんを見殺しにしろと言っているのではない。彼の解放を心から願うし、政府にはできるだけのことをしてほしいと思う。

しかし、その背後で起きたこと、そして今起きていることにこそ目を向けるべきだ。後藤さん事件は、イスラム国について学ぶには大変いい機会となるはずだし、イスラム国がヤジディやクルド人にしている残虐行為について知るチャンスなのだ。イラク戦争に関わった日本の責任も学ぶことができる。日本としてできることがあるはずだ。
自分だけ、蚊帳の外でいい、という虫のいい平和主義など今の時代通用しない。そして自己責任うんぬんなどという内向的な議論は、その虫のいい平和主義の延長線にある矮小な世界観を反映しているに過ぎず、議論にすら値しないことに気づくべきだ。



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ライフワーク、大自然と人間の共生をテーマに二つの目線から撮影を続ける。
1、地球46億年の歴史を、空から撮る。
2、祈りを通して、人間の内面世界を露わにする。

これまで講談社出版文化賞、日本写真協会作家賞,同新人賞他、受賞多数。
 Life, Paris Match, Geo、National Geographic など海外のメディアでもフォトストーリィを発表
著書に「祈りの大地」(岩波書店)「伊勢神宮 式年遷宮と祈り」(集英社)「 鯨人(くじらびと)」集英社新書 
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フォトエッセイに 「時の海・人の大地」 魁星出版、「フリスビー犬、被災地を行く」飛鳥新社がある。

東京都町田市在住 大分県出身
日本写真家協会会員

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