いつも、がけっぷち ノンフィクションの小さなウソ

ノンフィクションの小さなウソ

昨日、NHKスペシャルで放映された「世紀の一戦」パッキャオとマルケス戦を題材に、「ボクシングの聖地」ラスベガスのビジネス世界と、故郷の人々のために戦うフィリピンボクサーの姿を対比させたドキュメントは、単にボクシング界に留まらず、社会問題を提議させるような内容で、ボクシングに興味がない人も引き込まれるような、いいドキュメンタリーだったと思う。

ただ、いくつか気になった点があった。
それは、テレビがドキュメンタリーを制作するときにつくる演出、言い換えれば小さなウソだ。

まずタイトル「世紀の一戦」ボクシングファンなら誰でも思うだろうが、このマッチメークが決まった時、誰もが思ったのが、ああまたか、というため息にも似た感想だろう。
マルケスはパッキャオの運命の相手、メイウェザーにいいところなく敗れており、メイウェザー戦を期待していたファンからすると、4度も戦った相手とまたやるの?というところがあった。
メイウェザーなら文句なく世紀の一戦。
結果だけみれば、「世紀のKO」だといえるが。

ラスベガスとミンダナオ島の小村を対比させるのが、この番組の骨子だったが、そのためにいくつかの演出を行っていた。
ラスベガスをプロモーターのボブアラムに代表させ、ミンダナオ島のボボというトレーナーをそれに対比させ、番組はボボの独白で進行していた。
しかし、誰もが知っている通り、パッキャオのメイントレーナーは彼が心酔しているフレデイローチ。ボボはアシスタント的存在にすぎない。パッキャオの躍進はローチとの出会いから始まっており、ローチ抜きのパッキャオはありえない。

またメキシカンのマルケスが富めるボクサーの象徴のように扱われ、パッキャオがミンダナオの村で練習しているように演出されていたが、パッキャオの主練習場は、ロスアンジエルスにあるローチが仕切るジムだ。それでは扱い方が難しいので、あえて、ローチを番組から外し、設定を変えたようにみうけられる。

パッキャオ


ボブアラムがパッキャオに注目し始めたのが、モラレス戦以来というのもひどい。あの頃はもうボクシング界の寵児だった。モラレスの映像を使いたかったので、そういう話に持って行ったと思われる。遡ること数年、マルコ・アントニオ・バレラ戦で衝撃のKO勝ちを飾ったのが、彼が世界中に注目されたきっかけだった。

ボブアラムがパッキャオ対マルケスはKO勝で勝つ事を条件にしたとい話はひどい。力関係を考えてもプロモーターそんなこと決められるわけがない。どう考えてもKO決着を望んでる、程度の話。結果がああだったので、強引に持って行ったなという感じ。

フィリピンに戻ったパッキャオがいった心に残る言葉「背負っていたと思っていたら支えられていた」これには自分も感動したが、実はこれはデビュー以来、彼がいつも言っていること。まあでもこれは許せる。

こうした小さいウソ、演出はテレビドキュメンタリーにつきものだ。それを知った上で自分は見ているので、かまわないが、知らない人は裏切られたと感じるかもしれない。



そうしたことを考えても、この番組はボクシングを知らない人でも面白く観られ、今という社会の一面を炙り出した、良くできたドキュメンタリーだと思う。

ただ本当に凄いドキュメンタリーは、観る者に感動を与え、そこに小さなウソさえないものだと思う。最近、感動するドキュメンタリーが少ないのは、むしろ、メディアが双方向になり、作る側にウソがつきにくい状況が生まれ、まとめにくくなっているせいではないかと思う。

ついでに書けば、私はパッキャオの大ファンだが、パッキャオの一番の魅力は、変に聞こえるかもしれないが、その愛嬌ある人柄。輪タクの運転手にしか見えない風貌で、強敵をなぎ倒し、言葉にはユーモアが溢れ、かといって飾らず、気負いもない。
地元への慈善事業も実は隣人にパンを分ける感覚。決して聖人君子ではない。むしろ愛すべき男なのだ。そんなところ。番組では聖人君子のように扱われていたのがちょっと物足りなかったな。人間、パッキャオをもっと描写してほしかった。


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ライフワーク、大自然と人間の共生をテーマに二つの目線から撮影を続ける。
1、地球46億年の歴史を、空から撮る。
2、祈りを通して、人間の内面世界を露わにする。

これまで講談社出版文化賞、日本写真協会作家賞,同新人賞他、受賞多数。
 Life, Paris Match, Geo、National Geographic など海外のメディアでもフォトストーリィを発表
著書に「祈りの大地」(岩波書店)「伊勢神宮 式年遷宮と祈り」(集英社)「 鯨人(くじらびと)」集英社新書 
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フォトエッセイに 「時の海・人の大地」 魁星出版、「フリスビー犬、被災地を行く」飛鳥新社がある。

東京都町田市在住 大分県出身
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